2012年02月09日
理化学研究所 ゲノム医科学研究センター 内分泌・代謝疾患研究チーム
前田士郎 チームリーダー
糖尿病患者は世界規模で増え続けており、すでに3億人に達したともいわれる。その9割は、インスリンの分泌能低下や感受性低下がみられる2型糖尿病。この2型糖尿病には、複数の関連遺伝子が存在し、人種によって遺伝子の種類や病態が異なることが明らかになってきている。このほど、文部科学省「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト(第2期)」の実施機関である東京大学大学院 医学系研究科(門脇孝 教授)、理化学研究所(以下、理研) ゲノム医科学研究センター 内分泌・代謝疾患研究チーム(前田士郎 チームリーダー)らは、国際共同プロジェクト「2型糖尿病アジア遺伝疫学ネットワークコンソーシアム(AGEN-T2D)に参加し、日本、中国、韓国など、東アジアの患者に特徴的な遺伝子を突き止めた。
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肥満や遺伝的な要因が複雑に関与する糖尿病。その発症に関わる遺伝子研究は困難を極めていたが、最近、欧米人を対象にしたゲノムワイド関連解析(GWAS)が精力的に行われるようになり、飛躍的に進歩した。これまでに、2型糖尿病の発症に関わる遺伝子領域が約50箇所種同定されたほか、欧米人の糖尿病には肥満が多く、その病態は「インスリン感受性の低下」が顕著なことなどが知られるようになっている。一方、東アジアでは、肥満の程度が軽いにも関わらず2型糖尿病を発症する人が多く、「インスリン分泌能の低下」が顕著であることが明らかになってきた。これらの成果を受け、糖尿病の遺伝因子の人種差が問題視されはじめた。
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こうした背景の下、2010年、東アジア地域の人種を対象に、糖尿病などの疾患の関連遺伝子を同定すべく、AGEN-T2Dが発足された。コンソーシアムには、アメリカのヴァンダービルト大学およびハーバード大学、シンガポールのシンガポール遺伝子研究所、韓国の国立保健院、台湾の中央研究院、日本の国立国際医療センター、東京大学および理研ゲノム医科学研究センターが参画。今回は、東アジアの8グループ(計 1万8817人)を対象にGWASを行い、これまでに知られていなかった2型糖尿病感受性遺伝子候補をリストアップしたうえで、別の3グループ(計 1万417人)を対象にした検証がなされた。
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「解析の結果、新たな感受性遺伝子領域が8つ発見されました。そのうちの3つは欧米人でも弱い関連がみられるようですが、残りの5つについては、欧米人でははっきりした関連がみられませんでした」と前田TL。つまり、この5つの遺伝子は、東アジア人に特有の2型糖尿病関連遺伝子である可能性が高いといえる。さらに前田TLは、「近いうちに、さらに10以上の2型糖尿病関連遺伝子についても報告される予定になっています」と加える。
「ただし、これらの遺伝子がどのような機序でインスリン分泌能を低下させているのかについては未解明で、これから研究を進める必要があります」。そうコメントする前田TLは、医学部出身で糖尿病や腎臓疾患を専門とする内科医としての経歴をもつ。ミシガン大学への留学を経て、2000年に研究員として理研 遺伝子多型研究センター(現ゲノム医科学研究センター)に赴任し、現在に至る。
2001年以降、前田TLは糖尿病と糖尿病合併症(腎症)に関するGWASに取り組み、2型糖尿病の関連遺伝子の同定も進めてきた。AGEN-T2Dへの参加については「2型糖尿病の関連遺伝子はたくさん存在し、単一の遺伝子では、発病リスクが1.1〜1.4倍、高くなるだけです。このような遺伝子を、私たちのような個別の研究グループが同定するのは難しいので、AGEN-T2Dに参加することにしたのです」と話す。
解析が進むにつれ、2型糖尿病の感受性遺伝子は少なくとも100以上あると考えられるようになってきている。このことは、同じ2型糖尿病でも、患者ごとの遺伝的な背景がかなり異なることを示している。「私の夢は、患者さんごとの遺伝的素因を考慮したオーダーメード医療を実現することです。そのためにも、未知の遺伝子の同定とその機能解明を急ぎたいと考えています」と前田TL。予備軍を含むと1千万人以上の2型糖尿病患者を抱える日本。研究成果の行方に、熱い視線が注がれている。
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